私たちの脳には「スコトーマ」と呼ばれる心理的盲点が存在し、興味のあるものにだけ焦点を合わせ、他のものは背景に溶け込んでしまいます。
この仕組みは便利ですが、時には重要なヒントを見逃すこともあります。
現実を正確に把握するためには、「見たいものだけを見る」という習慣から距離を置き、観察力を高める必要があります。
スコトーマは、脳のエネルギーを節約する機能と考えると理解しやすいです。
膨大な情報の中で迷わないように、脳は「自分に関係がある」と判断したものを強調し、他のものをぼかします。
例えば、欲しい靴が決まると、街の広告やSNSの投稿が急に目に入るようになる感覚です。
この仕組みは便利ですが、固定化すると変化や学びのサインを見逃してしまいます。
現状を正しく理解するには、思っている以上に多くの情報が必要です。
似た情報を少しずつ集めるのではなく、異なる視点の情報を一気に取り込むことが重要です。
サンプルが少ないと、過去の記憶に基づいて都合よく解釈しがちだからです。
ここで三つのシナリオを考えてみましょう。
プレゼンを向上させたい人がいます。一度の発表を振り返るより、五回分の録画を見直し、参加者のメモを読むことで、話す速度や間の取り方、スライドの文字量などの傾向が立体的に見えてきます。
語学を伸ばしたい人も同様です。単語帳だけでは伝わらない「使い分け」が、ニュースやドラマ、実際の会話、ポッドキャストを並行して聞くことで、文脈ごとのニュアンスとして体得できます。
業務改善でも、単発の障害対応で「次から気をつけよう」と終えるより、三か月分の対応ログを分析すると、再発のパターンや時間帯の偏り、担当者の集中などが見えて、具体的な再発防止策が生まれます。
これらはすべて「量が質に変わる」瞬間です。
新しいことを学ぶ際、私たちは過去の記憶と照らし合わせて理解します。
その過程で「これは同じだ」と感じた瞬間、脳は探索を止めがちです。
これはイエローカードのような合図です。
この合図に気づいたら、立ち止まって問い方を変えてみましょう。
「どこが違うのか」「何が追加されたのか」「この文脈ではどう意味が変わるのか」。
似たフレームワークでも、前提や対象領域、測定の観点が一つでも異なれば、得られる示唆は異なります。
「同じだ」と感じたら、そこからが本当の学びの始まりです。
心から望むゴールがあると、日常の情報は意味を持ち始めます。
例えば「来季、社外カンファレンスで登壇する」と決めた人は、社内会議での短い発言でさえ、構成や声量、視線の置き方に意識が向きます。
ゴールは、何を見るか、何を見逃すかの基準を静かに書き換える装置です。
スコトーマを敵視するのではなく、ゴールという磁場を作ってフィルターの通り道を新しくすることで、学びは自然に深まります。
スコトーマをうまく活用すれば、頼もしいパートナーとなります。
膨大な情報を受け取り、注意信号で一息つき、目標に焦点を合わせる。
この三つが揃うことで、現状をより正確に把握し、学びが自然と深まります。
焦る必要はありません。
楽しさを指針に、あなたの目指すゴールへと進んでいきましょう。
