私たちが会話をするたびに、「この人はこう感じるんだ」「あの人はそこを見るんだ」といった多様な違いに気づきます。
お互いに異なるのは当然のことです。
ここから始めると、関係はずっと楽になります。
同じ景色を見ていても、人によって注目する点は異なります。
脳は膨大な情報の中から「自分にとって重要だ」と判断したものを選び出し、それを基に現実を構築します。
昨日重要だったことは、今日も明日も重要に見えやすく、世界は「昨日の延長」として編集されがちです。
例えば、2人で街を歩いている場面を想像してみてください。
新しい店を探している人には、通りの看板が次々と目に入ります。
一方、人混みが苦手な人には、道幅や人の流れが強く印象に残ります。
2人は同じ道を歩いているのに、見ている現実はすでに異なっています。
判断は意識だけで行われているわけではありません。
私たちは過去の記憶と目の前の出来事を無意識に組み合わせ、素早く意味づけしています。
このとき基準になるのがコンフォートゾーン(心身が安心して機能できる範囲)です。
自分のコンフォートゾーンに合致する情報は「正しい」「心地よい」と感じやすく、外れた情報は違和感として跳ね返しがちになります。
会議の場を思い出すと分かりやすいでしょう。
新しい挑戦にワクワクする人は、可能性の広がりに自然と目が向きます。
慎重な人は、同じ資料からリスクの兆しを素早く見つけます。
どちらも間違いではありません。
無意識の基準が違うだけです。
職場のプロジェクトでは、同じデータを見ても反応が分かれます。
納期を何より重視する人はスケジュール表の更新から着手し、品質を大切にする人はテスト項目を追加していきます。
視点の差は時に衝突を生みますが、うまく組み合わせればプロジェクトは強くなります。
家族で夕食の相談をするときも同様です。
子どもは「どこが楽しいか」を思い浮かべ、家計を担う人は「費用対効果」を考え、健康を気にする人は「栄養バランス」を気にします。
誰も間違っておらず、それぞれの「大切」が違うだけです。
「違いを楽しむ」ためには、まずラベリングを外してみます。
「慎重すぎる」「ノリが軽い」といった短い言葉で相手をまとめず、「この人は何を大切にしているのだろう?」と問い直します。
価値観の源に目を向けるだけで、会話の温度が和らぎます。
次に、自分が見えているものを言葉にして共有します。
「私にはリスクのAが大きく見えています」「私は機会のBが広がって見えています」と、意見の結論ではなく“見え方”を伝えることがポイントです。
見え方の交換は、対立を弱め、統合を促します。
そして、変化を受け入れてみましょう。
いつもと違う席に座る、別部署の打合せに同席する、初めての店に入る――そんな小さな環境の変化でも、無意識の選択肢は確実に増えます。
心地よさの範囲が広がると、他者の違いにも自然に寛容になれます。
エフィカシーとは「自分にはできる」という自信の感覚です。
お互いの違いを尊重し合える環境では、「自分の意見にも価値がある」と感じやすくなり、挑戦することへの抵抗が減ります。
また、他者の強みが自分の弱点を補完し、チーム全体のエフィカシーが連鎖的に向上します。
無意識は過去の記憶を参照しながら、現在の現実を構築しています。
そのため、人が異なって見えるのは自然なことです。
違いを出発点に対話を進めることで、世界はより多面的になります。
お互いを尊重し合い、一人ひとりのエフィカシーを高め合う。
そんな素晴らしい世界に向けて、今日から静かに一歩を踏み出しましょう。