「努力しなさい」や「努力が足りないからできないのです」といった言葉を、子どもの頃から何度も耳にした経験がある方は多いでしょう。
テスト勉強や部活動、受験、仕事の場面で、「頑張らなきゃ」「もっと努力しなきゃ」と自分を奮い立たせた記憶があるかもしれません。
しかし、「努力」とは一体何なのでしょうか。
多くの場合、それは「本当はあまりやりたくないけれど、我慢して続けていること」を指しているのではないでしょうか。
好きなことをしているとき、あなたは「努力している」とはあまり感じないはずです。
例えば、ゲームに夢中になっている子どもを想像してみてください。
時間を忘れて何度もプレイを続け、周りが「そろそろやめなさい」と言っても、「あとちょっと!」とコントローラーを手放しません。
このとき、その子は「努力」しているのでしょうか。
おそらく本人は「頑張っている」という意識すらなく、ただ「やりたいからやっている」だけです。
この「やりたいからやっている」という状態が「want to」です。
一方、「やらなきゃいけないから仕方なくやっている」という状態が「have to」です。
少し、自分の生活を振り返ってみましょう。
例えば、次のような場面があります。
- 仕事で提出しなければならない報告書
- 家の中の片づけや、あまり好きではない家事
- 気が進まないけれど、断りにくくて引き受けた飲み会
これらは、多くの場合「have to(やらなければならないこと)」として、頭の中に分類されます。
「やらないと怒られるから」「迷惑をかけたくないから」「評価が落ちると困るから」といった理由で、頑張って取り組む状態です。
一方で、こんなことはどうでしょう。
- 好きなアーティストのライブ情報を調べる
- 行ってみたかったカフェをリサーチする
- 趣味の勉強や、興味のある分野の本を読む
- 夢中になって没頭してしまう手芸やDIY、ガジェットいじり
これらは、「やらなければならない」からやるというより、「気づいたらやっていた」「止められないくらい楽しい」と感じるものではないでしょうか。
これが「want to(やりたいこと)」の典型的な状態です。
同じ「学ぶ」という行為でも、「英語の勉強をしなきゃ(have to)」と思っているときは、なかなか机に向かえないかもしれません。
しかし、「海外ドラマを字幕なしで楽しみたい」「海外の友人と自由に話したい」というゴールがあり、その未来をワクワクしながら想像できているとき、英語の勉強は「やらされていること」から「自分からやりたいこと」に変わっていきます。
ここで重要なのは、「どんなゴールを持っているか」ということです。
「やらなければならない」と感じることが多いとき、私たちは通常、目の前の義務や責任にばかり目を向けています。
「締め切りに間に合わないと困る」
「上司に怒られたくない」
「周りから遅れていると思われたくない」
このような「避けたい未来」を基準に行動していると、努力は「我慢しながら頑張ること」になりがちです。
一方で、「こうなったら最高だ」「そんな自分でいられたらうれしい」というゴールから行動を選ぶと、その行動は自然と「やりたいこと」に近づきます。
例えば、
- 「家族と穏やかに過ごせる、心地よいリビングで暮らしたい」というゴールがあると、掃除や片づけも「未来の自分のためにやりたいこと」に変わります。
- 「世界から戦争と差別を無くす」というゴールを持っていると、資料作成や学び直しも、単なる義務ではなく、「もっと良いものを届けたいからやりたいこと」になります。
同じ行動でも、「どのゴールのためにやっているのか」が変わるだけで、「やらなければならない」から「やりたい」に切り替わるのです。
ここで重要なキーワードは、「ゴール側の臨場感」です。
臨場感とは、「まるでその場にいるように感じるリアルさ」のことです。
つまり、「ゴールを達成した未来の自分が、どんな毎日を過ごしているか」を、できるだけ具体的に、生き生きと感じられるかどうかがポイントになります。
「ゴール側の臨場感」が弱いとき、私たちはどうしても「今、目の前の楽な方」や「とりあえず避けたいこと」ばかりに意識が向かいます。
その結果、「やらなければならないこと」に追われ続ける感覚から抜け出せません。
逆に、ゴール側の臨場感が強くなればなるほど、日々の選択は自然と変わっていきます。
- ゴール側の自分なら、今日は何を選ぶだろう?
- その未来の自分は、どんな時間の使い方をしているだろう?
- どんな人たちと関わり、どんな言葉を使っているだろう?
こうした問いを自分に投げかけることで、少しずつ「ゴール側の自分」がリアルになっていきます。
では、具体的にイメージしてみましょう。
あなたのゴールが、心から「やりたい」と思えるものであるとします。
そのゴールは、もうすでに達成されていて、あなたはその世界で日常を送っています。
そのときのあなたは――
- 朝、どんな気分で目を覚ましているでしょうか。
- その一日は、どんな予定から始まるでしょうか。
- どんな服を着て、どんな場所で、誰と話しているでしょうか。
- 仕事や活動が終わったあと、どんな充実感を味わっているでしょうか。
- 夜、眠りにつくとき、どんな言葉を心の中でつぶやいているでしょうか。
こうしたことを、できるだけ細かく思い描いてみてください。
ポイントは、「特別な一日」ではなく、「ゴール達成後のふつうの一日」をイメージすることです。
その「ふつうの一日」がリアルになるほど、ゴール側の臨場感は高まっていきます。
イメージが徐々に鮮明になってきたら、自分に問いかけてみましょう。
ゴールを達成した自分なら、今この瞬間に何を選ぶだろう?
この問いに対する答えは、「やらなければならない」から生まれるものとは異なるはずです。
そこから生まれる選択こそが、「やりたい」という気持ちから始まる第一歩です。
私たちはしばしば、「努力が足りない」「まだまだだ」と自分を責める方向に意識を向けがちです。
しかし、その視点にとらわれている限り、「しなければならない」というプレッシャーから抜け出すのは難しいでしょう。
重要なのは、「足りない努力」を探すことではなく、「心から望むゴール」と「そのゴールを達成した自分」に意識を向けることです。
ゴールを達成したあなたは、どんなことをしているでしょうか?
どんな表情で、どんな言葉を使い、どんな一日を過ごしているでしょうか。
その姿に意識を向けるほど、今の選択や行動は少しずつ変わっていきます。
「努力しなければ」ではなく、「未来の自分に近づきたいからこれをしたい」という感覚が育まれていきます。
「しなければならない」ではなく、「やりたい」で生きる。
その出発点は、常に「ゴールを達成した自分」に意識を向けることから始まります。
