田舎に帰省して久しぶりに両親と再会した方から聞いた話です。
元気だと思っていた両親が予想以上に年を取っていることに気づき、現実が胸に重くのしかかったそうです。
その翌週、「老後のゴールを考えたら、思いがけない視野が広がりました」と言っていました。
日々の忙しさから一歩引いて、未来を見据えるだけで、心の歯車が再び噛み合うのです。
ここで言う“視野が広がる”とは、心理学でいうスコトーマ、つまり見えない盲点が取り除かれることを指します。
私たちの脳は、日常の生存や仕事に必要な情報を優先し、それ以外を無視する傾向があります。
これは効率的ですが、変化を求めるときには視野を狭めることにもなります。
そこで役立つのが、「老後」という遠い未来を先に描き、そこから現在に戻ってくるという考え方です。
日々の仕事や今月の締め切りに追われていると、どうしても短期的な視点で意思決定をしてしまいます。
しかし、老後の自分を具体的に思い描くことで、今の選択に長期的な視点が加わり、自然と優先順位が整います。
例えば、70歳の自分がどんな健康状態で、どこに住み、誰と過ごし、どんな生活をしているかを具体的に想像すると、今日の行動が選びやすくなります。
「老後」を描く際、最初のステップとしてカテゴリーを手がかりにするのは効果的です。
仕事やキャリア、お金、健康、家族、メンタルヘルス、社会貢献、人間関係、趣味、芸術・音楽、生涯学習、退職後、老後といった項目を見渡し、70歳の自分がそれぞれの項目でどんな状態にあるかを短い段落でメモしていきます。
箇条書きにするよりも、物語として一気に書くことで、項目同士が自然に絡み合い、現実の選択への橋渡しができます。
例えば、70歳の私は、午前中に近所の体育館で軽い運動をし、午後は地域の子ども向けプログラミング教室を手伝う。
年に一度は夫婦で城巡りに出かけ、暮らしは身軽で医療や買い物に困らない町に住む。
生活費の基盤は公的年金と配当、小さな講座収入。
週に一度、オンラインで昔の同僚と読書会を続ける。
このように生活の一日を描いてみると、健康は運動習慣へ、家族は住まいの選択へ、社会貢献は学び直しや資格取得へと、現在の具体的な行動に自然とつながっていきます。
70歳で山歩きを楽しむ自分を思い描くと、睡眠や運動を削る働き方は選びづらくなり、会議の時間設計や残業の断り方が変わります。
親の近くで暮らす姿を描けば、転勤やリモート、副業の選び方に基準が生まれ、5年以内の住み替え計画や上司への相談も現実味を帯びます。
地域の学び場を支える70代を想像すれば、今受ける講座や教える練習が“将来の自分への投資”という意味を持ち、月1回のファシリ練習やNPOでの実践が行動に落ちます。
未来の自分を思い描くことで、今の選択が明確になり、新たな可能性が見えてきます。
カテゴリーは目的地への地図であり、心躍るストーリーは行動の原動力です。
どちらか一方に偏るのではなく、地図を見つつ物語を少しずつ紡いでいくことが大切です。
小さく始め、修正を重ねながら続けていけば、自然と視野が広がっていくでしょう。