ネガティブバイアスを外す思考トレ

私たちが「現実」と呼ぶものは、脳が過去の経験や記憶を基にその都度構築する「見え方」に過ぎません。
この記憶の組み合わせには偏りがあり、特に危険や失敗といったネガティブな出来事が強く残りやすいのです。
これは、人類が生存のために危険信号を優先してきた共通のメカニズムであり、悪いことでも性格の問題でもありません。
しかし、この偏りが強すぎると、自分の実力を過小評価してしまうことがあります。

一日の終わりに、成功したことがたくさんあったのに、最後の一言の指摘だけが頭に残ることはありませんか?
会議で9人に褒められ、1人に注意されたとき、心は「注意された一点」に集中してしまいます。
これは「危険を先に検知する」ための古いプログラムが働いているからで、私たちの心は油断よりも警戒を優先するようにできているのです。

この特性自体は頼もしいものですが、日常生活では過剰なブレーキとなることがあります。
新しい提案をする、初めての場に参加する、学び直しを始める——これらは命に関わる危険ではありません。
それにもかかわらず、脳は過去の失敗や不安の記憶を強調し、現状維持を促します。
その結果、「自分はまだ準備不足だ」「自分には荷が重い」と、実際よりも自分を低く見積もってしまうのです。

「脳は10%しか使っていない」という表現をよく耳にしますが、実際には脳は状況に応じて広範囲にわたって連携し、多くの領域が常に活動しています。
それでも“眠っている力がある”と感じるのは、注意の向け方と解釈の癖に原因があります。
ネガティブに偏った視点を通すと、同じ出来事も「できなかった」と分類され、可能性が狭まります。
しかし、注意の向け方を少し変えるだけで、脳は既に持っている資源(知識・経験・人のつながり)を“使える形”に再編集してくれます。

ネガティブ寄りの特性があるなら、意識的に自分を上方修正することで、ようやくバランスが取れます。
ここでいう上方修正は、根拠のない自惚れではなく、過去の成功が十分に参照されていない状態を“適正”に戻すための微調整です。

具体的には、毎日の終わりに30秒だけ時間を取り、その日に「できたこと」を3つ思い出して短く書き留めてみてください。
予定どおり起きられた、問い合わせメールを1件返せた、十分だけストレッチをした——そのくらいで十分です。
小さな達成を可視化すると、脳は「自分は前に進んでいる」という証拠を集め、翌日の選択が軽くなります。
同じ出来事でもラベルを張り替える工夫も効果的です。
「失敗した」を「仮説の検証が一つ進んだ」に言い換えるだけで、次の一手が見えてきます。
脳は言葉に影響されて記憶を再編成するからです。
さらに、未来の自分を“盛って”描写してみると、行動が変わります。
「来週の私は今より十分落ち着いて話せる」「来月の私は提案書を一人で形にできる」。
少しの上方修正が、現実側を引き上げる力になります。

ここまで読んで、「本当に自分にできるのだろうか」と不安になるかもしれません。
その声に対して、冷静に応えてみましょう。
これまでの経験を振り返ってください。
あなたは何度も学び、工夫し、困難を乗り越えてきたのです。
その事実は変わりません。
少し視点を変えて、「実は自分はもっとできるかもしれない」と仮に考えてみてください。
少しのポジティブな調整が、ちょうど良いバランスをもたらします。
そう考えると、楽しみになってきませんか。

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この記事を書いた人

苫米地式コーチング認定コーチ/苫米地式コーチング認定教育コーチ/TICEコーチ/PX2ファシリテーター。 苫米地英人博士から指導を受け、青山龍ヘッドマスターコーチからコーチングの実践を学び、世界へコーチングを広げる活動を実施中。あなたのゴール達成に向けて強力にサポートします。

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