最近では、多くの人が転職や人事異動、新しいプロジェクトへの参加など、仕事における変化を経験しています。
新しい部署に移ったり、役割が変わると、しばらくは仕事に集中せざるを得ません。
「早く成果を出さなければ」
「周囲の期待に応えたい」
こうした気持ちになるのは自然なことです。
しかし、そんな時こそ意識しておきたいことがあります。
それは、「人生には多様なゴールが必要だ」ということです。
仕事だけでなく、人生のさまざまな面にゴールを持つことが、長期的な安心感や充実感につながります。
仕事に変化があると、「仕事の成果」や「評価」が最優先になりがちです。
職場での立場や結果に意識が向くのは当然ですが、他の重要な領域が後回しになることも少なくありません。
例えば、仕事に没頭し、遅くまで働く生活を想像してみてください。
睡眠時間が削られ、食事は簡単に済ませ、休日も仕事のことが頭を離れない。
そんな日々が続けば、体調を崩すこともあるでしょう。
その時、「もっと頑張りたい」と思っても、体がついてこなくなります。
頑張ることすらできず、仕事だけでなく日常生活も止まってしまうかもしれません。
また、家族との関係も見逃せません。
「家族のために頑張っている」と思っている時ほど、実際には家族との会話が減り、すれ違いが生じることがあります。
仕事に意識が向きすぎると、家族との時間が「後回し」になりがちです。
気づいた時には、心の距離が広がっているかもしれません。
このように、仕事だけにゴールが偏ると、些細なトラブルや不調が人生全体に大きな影響を与えることがあります。
ここで一度、あなたの「人生の地図」を俯瞰してみましょう。
コーチングでは、人生をいくつかの領域に分け、それぞれにゴールを持つという考え方があります。
バランスホイールとも呼ばれますが、専門用語にこだわる必要はありません。
「仕事」「キャリア」「お金」「健康」「家族」「心の状態」「人間関係」「趣味」「芸術や音楽」「学び」「社会とのつながり」「老後やセカンドライフ」など、あなたの人生を構成する要素を円グラフのように思い描いてみてください。
項目名がきれいに分かれている必要はありません。
「友人との時間」「一人で過ごす静かな時間」「地域とのつながり」など、あなたにとって大切なものを自由に加えてください。
重要なのは、いくつかの異なる分野において「こうなったらいいな」と思える方向性を持つことです。
8つ前後、多い人なら10〜12の分野に目標を持つことで、人生のバランスが取りやすくなります。
「各分野にゴールを設定しましょう」と言われると、身構えてしまう人もいるでしょう。
完璧なゴールを書かなければならないと思うと、手が止まってしまいますよね。
しかし、本来のゴールはもっと柔軟なものです。
「こうなっていたらいいな」という日常の一場面を思い浮かべるだけで十分です。
例えば、健康の分野では、朝起きたときに体が軽く、鏡を見て「今日も元気に動けそうだ」と感じる自分を想像するのも良いでしょう。
家族の分野では、月に一度家族で外食し、みんながリラックスして笑っている様子を思い描くのも立派なゴールです。
趣味の分野では、日曜日の午前中にコーヒーを飲みながら好きな本を読んでいる自分や、楽器や絵、写真などに没頭している姿を想像するのも良いかもしれません。
老後の分野では、10年後や20年後にも好きな場所に気軽に出かけられる体力があり、経済的な不安が少なく、「次はどこへ行こうか」と笑いながら話している自分をイメージするのも一つのゴールです。
こうした具体的な情景を思い浮かべることで、日々の選択が少しずつ変わっていきます。
階段を使ってみようかな、少し早めに寝てみようかな、もう一言だけ家族に声をかけてみようかな――。
そんな小さな行動が、気づかないうちにゴールへとつながる日々の積み重ねになります。
人生のゴールを一つの分野に集中させると、その分野で何かが起こったときに自分も大きく揺れてしまいます。
例えば「仕事で成功している自分」がアイデンティティの大部分を占めていると、仕事でつまずいたときに「自分には価値がない」と感じてしまうことがあります。
しかし、仕事に加えて、家族との関係、友人とのつながり、趣味の時間、学び続ける自分、社会に貢献する自分など、複数の分野にゴールを持っていると、どこか一つで問題が起きても、他の分野が心の支えになります。
仕事で一時的に成果が出ていない時期があっても、「この時期だからこそ家族との時間を大切にしよう」「今はじっくり学びに投資する時期かもしれない」といった視点を持つことができます。
ゴールは「もっと頑張れ」という無言のプレッシャーではなく、「あなたの人生をどう楽しみたいか」を示す羅針盤のようなものです。
その羅針盤がいくつかの方向にしっかりと立っていると、多少の揺れがあっても、人生全体としては安定しやすくなります。
まずは気軽に始めてみましょう。
ノートや手帳の一ページに、「仕事」「家族」「健康」「趣味」「お金」「学び」など、思いつく分野を書き出してみてください。
その横に、「こんな状態になったら嬉しい」という一言を添えるだけでも十分です。
例えば、「仕事:今の職場で自分の強みを活かしている」「家族:月に一度は一緒に出かけてゆっくり話せている」といった短い一文で構いません。
後で見返したときに、「こんな未来を思い描いていたな」と思い出せれば、それだけで価値があります。
時間が経つにつれて、言葉を変えたり、追加したり、削除したりしても問題ありません。
ゴールは一度決めたら変えられない“契約”ではなく、その時々の自分に合わせて更新していく「今の自分との対話」のようなものです。
すでにコーチングを学び、実践しているあなたなら、「複数のゴールを持ち、人生全体のバランスを取ることの重要性」は理解しているはずです。
あとは、その理解を日常の選択に少しずつ反映させていくだけです。
知識として知っていることを、「実際に活用していること」に変えていくと、同じ出来事が起きても、感じ方や受け取り方が変わってきます。
仕事に変化があったとき、それを不安だけで受け止めるのではなく、「人生全体のゴールを見直すタイミングが来たのかもしれない」と捉え直すこともできるようになります。
変化の多い今こそ、仕事だけでなく、人生全体のゴールを見直す良い機会かもしれません。
どうか、仕事だけでなく、あなた自身の人生そのものを大切にしてください。
コーチングを実践しているあなたなら、きっと大丈夫です。
いくつものゴールを楽しみながら、これからの毎日を、自分らしくデザインしていきましょう。
