私たちは日々、多くの人と出会い、会話や行動を通して互いの違いを感じ取ります。
ある人にとっては当たり前に見える光景が、別の人にはまったく新鮮に映ることもあります。
私たちが日常で目にする光景や出来事は、過去の経験や価値観を通して脳内で加工されます。
たとえば、街中を歩いているとき、新しく購入したばかりの自転車と同じモデルを見かける機会が急に増えることはないでしょうか。
この現象は、脳が自分にとって重要な情報を優先的に識別しているために起こります。
同じように、ある人は公園の花の美しさに心を奪われる一方で、別の人はその花が咲いている土壌や環境の変化に注目し、「季節が変わったのだな」と感じるかもしれません。
同じ景色を眺めていても、人それぞれが何に価値を感じるかは異なるため、それぞれのリアリティが生まれます。
つまり、自分の目に飛び込んでくる情報は、過去の記憶と今の状況が組み合わさって形作られているのです。
私たちの脳は常に膨大な情報を処理しており、その多くは無意識のうちにふるいにかけられています。
過去に培われた経験や価値観は、「網様体賦活系(RAS)」というシステムを通して、目の前の現実と結びつきながら「重要だ」と判断された情報だけを優先的に脳へ送ります。
たとえば、初対面の人と会ったとき、相手の表情や服装から「この人は信頼できそうだ」「どんな話題が合いそうか」といった判断が瞬時に下される経験は、多くの人が体験しているはずです。
また、通勤途中に空の色が気になり「天気が良い日は気分も晴れるな」と感じる人がいる一方で、自動販売機の割引情報や価格表示が目に入って「今朝はここでコーヒーを買おう」と決める人もいます。
このように、無意識のフィルターによって選ばれた情報は、私たちの行動を知らぬ間に方向づけ、安心感をもたらすコンフォート・ゾーンを形成します。
人は皆、自分のフィルターを通して世界を見ているため、違いを前提にコミュニケーションを築くことが大切です。
まず、自分とは異なる視点を想像してみることが有効です。
例えば「私はカフェで読書する時間が好きだが、友人は雑誌を眺めながらのんびり過ごすのが心地いいのかもしれない」と考えるだけでも、お互いの好みや価値観が見えてきます。
そのうえで、自分が何を見て何に注目しているのかを言葉にして相手に伝えると、相手も「そういう見方もあるのか」と興味を示しやすくなります。
そして、違いを否定するのではなく、「そんな視点があるなんて面白いね」「教えてくれてありがとう」と肯定的に受け止めることで、会話が深まりやすくなります。
「エフィカシー」とは、自分がゴールを達成する力を信じる気持ちのことです。
お互いの違いを尊重し合う環境は、個々のエフィカシーを高める土台になります。
たとえば、相手の成果や努力を受け止め、自分も「この点は素晴らしかった」「ここを工夫するともっと良くなる」というふうに具体的なフィードバックを交わすことで、お互いの成長意欲が刺激されます。
こうした取り組みを積み重ねることで、自分も相手も「また挑戦してみよう」というエフィカシーが自然と育っていくのです。
私たちは無意識のうちに過去の経験をフィルターとして使い、目の前の現実と組み合わせて世界を理解しています。
そのため、誰もが異なるリアリティを持つのは当然のことです。
大切なのは、その違いを「当たり前」と受け止め、尊重し合いながら、自分自身のエフィカシーを高めていくことです。
今日からぜひ、身近な人が何を見て何を感じているのかに興味をもち、違いを楽しむコミュニケーションを始めてみましょう。