私たちが最初に確認したいのは、あなたとあなたの周囲の人々が同じ世界に存在していても、同じ現実を生きているわけではないということです。
各人の現実は、その人が「重要」と感じて受け取る情報の集まりによって形成されています。
したがって、見え方が異なるのは当然のことです。
むしろ、その違いが人間関係や仕事における創造性を生み出します。
脳は一度に処理できる情報量に限りがあるため、無意識のうちに「今の自分にとって重要なもの」だけを選び取ります。
この選択基準がコンフォートゾーンです。
コンフォートゾーンとは、自分らしくいられる状態を指し、習慣や価値観、役割、言葉遣い、人間関係、作業環境などが含まれます。
私たちはこの範囲に合う情報を安心と感じ、合わないものは見過ごしたり避けたりしがちです。
重要なのは、判断が意識だけでなく無意識でも行われているという点です。
頭で「こうすべき」と考える前に、体が先に反応していた――そんな経験は誰にでもあるでしょう。
例えば、友人二人が商店街を歩いているとします。
カフェ巡りが好きな人は、新しくオープンしたベーカリーの香りや店先の看板にすぐ気づきます。
一方、人混みが苦手な人は、道幅や人の流れ、ベビーカーが通れるスペースの広さに注意が向きます。
二人は同じ場所にいるのに、何を大事と感じるかが違うため、記憶に残る景色も異なります。
私たちは見たいものを見て、見えていないものには気づきにくい傾向があります。
朝、新しいスマホを買おうと決めた途端、街で同じスマホを持った人が急に増えたように感じることがあります。
これは注意のフィルターが強く働いた一例です。
このフィルターは意識で操作できる部分もありますが、多くは自動的に働きます。
だからこそ、自分と他者の「見え方の違い」を前提にすると、日常のコミュニケーションがぐっと楽になります。
まず、「違っていて良い」と自分に許可を出すことから始めます。
次に、相手の視点に立って同じ景色をなぞってみます。
最後に、自分のコンフォートゾーンに少しだけ“遊び”をつくります。
いつも効率を最優先にする人なら、あえて寄り道のある帰り道を選んでみる。
感覚重視の人なら、一日の行動を数値で振り返ってみる。
ゾーンの外縁に触れる小さな実験が、見えていなかった盲点をやさしく溶かしていきます。
今いる場所で30秒だけ目を閉じ、目を開けたら赤いものを探してみてください。
見つけられたら、もう一度目を閉じ、今度は丸いものを探してみます。
探す対象が変わるだけで世界が違って見えるはずです。
日常でも同じことが起きています。
家族も同僚も友人も、それぞれが自分の「赤」や「丸」を探している――そう思えるだけで、関係は柔らかくほどけていきます。
私たちは皆、自分の中心から世界を見ています。
だから違って当然で、違うからこそ面白いのです。
相手の現実に敬意を払い、自分の現実を押しつけず、ときどき意図的に別のレンズをかけてみる。
この姿勢が重なると、関係はほぐれ、仕事は進み、毎日は豊かになります。
一人ひとりが中心――この認識から、今日の会話を始めてみましょう。
