抽象度を一段だけ上げる――その先へ

ゴールを設定する際、対象が広がるほど想像するのが難しくなります。
個人から家族、地域、市区町村、都道府県、日本、アジア、そして世界へと広がるにつれて、頭の中のイメージは薄れ、どの場面を描くべきかが不明瞭になります。
これは自然なことで、範囲が広がると具体的な生活の一場面に焦点を当てにくくなるからです。

そこで提案したいのは、いきなり世界全体を描くのではなく、抽象度を「一段だけ」上げる方法です。
出発点は身近な日常で構いません。自分のペースで始めれば十分で、何かを強制されることはありません。

臨場感とは「その場に自分がいるように感じられる現実感」です。
主語が広がると、日常の細部が減り、臨場感は弱まります。
自分の朝は容易に描けても、地域全体の朝はぼやけがちです。
鍵は、主語の拡張と映像の補給を同時に行うことです。
主語を一段だけ広げ、失われかける細部は身近な具体で補います。

「私の幸せ」を起点とするなら、次に描くのは「家族の幸せ」です。
階段を一段ずつ上がるように、まずは手で触れられる範囲で臨場感を保ちます。
ここが丁寧に描けると、その先の地域や市区町村へも自然に視野が広がります。

例えば、平日の朝を例にしてみましょう。
自分だけが気持ちよく一日を始めたいなら、前夜に朝食の準備をし、翌朝は深呼吸を3回してから静かにコーヒーを淹れるという小さな段取りを整えます。
これを家族に拡張するなら、同じ深呼吸を家族と一緒に行い、テレビは7時までつけないという「場の約束」を設けてみる。
子どもがいるなら、コーヒーの湯気が立つ間に「今日楽しみにしていること」を一言シェアする時間をつくる。
主語が広がっても、時間帯や場所を変えないことで、イメージが崩れずに保たれます。

次に地域に目を向けるなら、月に1度の家族時間に「15分だけ公園をきれいにする」という寄り道を加えてみます。
散歩の帰りに軍手と小さな袋で落ち葉を集め、ベンチで季節の写真を1枚撮る。
帰りに商店街でパンを買えば、負担は増えずに地域に小さなプラスが生まれます。
活動を大げさに告知する必要はありません。
静かに続けるほど、習慣として根づきます。

抽象度を上げる際のコツは、同じ時間・同じ場所・同じ登場人物をできるだけ固定し、変えるのは主語の範囲と、そこで起こる「一歩分の変化」だけに絞ることです。
まず自分の具体を一枚の写真のように思い浮かべます。
朝7時のキッチン、湯気の立つマグカップ、窓から入る柔らかな光――そこに家族の声が一往復増えるイメージを重ねます。
数日続けば、近所の方の挨拶が増えるなど、第三者が気づく変化も生まれてきます。
主語は広がっても、場面の骨格を変えない。
この原則が臨場感の低下を防ぎます。

抽象度を高めることで安定感が増します。
今日の一歩が明日の新たな一歩を導き、見える風景が徐々に変化していきます。
最初のステップは小さくても構いません。
時間と場所を決め、主語を少し広げるだけで十分です。
できることから静かに始めれば、臨場感を保ちながら行動が確実に積み重なっていきます。
あなたのペースで進んでください。

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この記事を書いた人

苫米地式コーチング認定コーチ/苫米地式コーチング認定教育コーチ/TICEコーチ/PX2ファシリテーター。 苫米地英人博士から指導を受け、青山龍ヘッドマスターコーチからコーチングの実践を学び、世界へコーチングを広げる活動を実施中。あなたのゴール達成に向けて強力にサポートします。

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