「コーチングはクライアントだけのもの」と思われがちですが、実際にはコーチ自身も定期的にコーチングを受けています。
むしろ、プロとしての成長を続けるために、コーチも自らコーチングを受けることが重要です。
コーチは他者の成長を支援する役割を担っていますが、同時に一人の人間であり、思い込みに囚われることがあります。
これらを見直すために、コーチ自身もコーチングを受けるのです。
コーチングでは「マインドの使い方」がよく話題になります。
どれほどマインドの仕組みに詳しくなっても、人には「スコトーマ」と呼ばれる心理的な盲点が存在します。
これは、思い込みや前提によって、目の前の情報が見えなくなる状態です。
例えば、周囲からは「十分できている」と評価されても、自分では「まだ足りない」と感じたり、自分の強みを言葉にできなかったりします。
新しいチャンスが訪れても、「自分には無理だ」と決めつけてしまうこともあります。
こうした「見えない部分」は、自分一人では気づきにくいものです。
故ルー・タイスでさえ、苫米地英人博士に「自分のスコトーマを外してほしい」と依頼していたと言われています。
マインドの仕組みを理解していた彼でさえ、他者の視点を必要としていたのです。
だからこそ、マインドを熟知しているコーチほど、「盲点はない」と考えるのではなく、意識的にコーチングを受けてスコトーマを外し続けようとします。
私自身、コーチングを受ける際に重視しているのは「体感」です。
頭で理解するだけでなく、心と体の変化を丁寧に味わうようにしています。
理論として知っていることが、実際に体験されると、その意味が全く違って感じられることが多いからです。
セッション中にコーチからの一言が、当たり前だと思っていた物事の見方を一変させることがあります。
「その前提は本当に必要ですか?」という問いが心に深く刺さり、長年信じてきた「自分像」が揺らぐこともあります。
「今の選択はどんなゴールから来たものですか?」と問われた瞬間、無意識に選んでいた行動が別の意味を持って見えてくることもあります。
そんな瞬間に、エフィカシー――「自分ならできる」という自己評価が高まるのを感じます。
これまで「自分の枠」の外だと思っていたことに対しても、「それを選んでいいのかもしれない」という感覚が静かに広がっていきます。
コーチングの効果は、瞬時に劇的な変化をもたらすこともあれば、日常生活の中で徐々に浸透していくこともあります。
セッションから数日後、ふとした瞬間に「以前の自分ならこうはしなかった」と気づくことがあります。
例えば、普段なら控えめにしていた場面で、「今日は少し前に出てみよう」と自然に思えることがあります。
また、失敗したときに、以前は自分を責めていたのに、「これは挑戦している証拠だ」と受け止め方が変わっていることに驚くこともあります。
セッションで心に投げかけられた小さな変化が、どのように広がり、どんな形で実を結ぶのかは、その時点ではわかりません。
しかし、後になって少しずつその姿を現してきます。
そのプロセスに気づくたびに、心の中に静かな期待感が広がります。
まるで、土の中に埋めた種が、ある日突然芽を出すのを見つけたときのような感覚です。
コーチングを受ける経験は、そのままコーチとしてクライアントに寄り添う力となります。
沈黙の中で起こる内面的な変化や、一言が人生の見方を変える瞬間の重みを、自ら体験しているかどうかは大きな違いです。
自分がコーチングを受けて感動した瞬間や、救われたと感じた気づきは、いつか必ず誰かに伝わると信じています。
自分が受け取ったものを、自分なりの言葉とスタイルで、一人ひとりに手渡していく。
その循環こそが、コーチとしての成長であり、喜びでもあります。
だからこそ、これからもコーチングを受け続けます。
そのたびに得られる体験と気づきを大切に育てながら、出会う方一人ひとりに、丁寧に、そして楽しく伝えていきたいと考えています。
