スコトーマを味方にする思考術

「スコトーマ」という言葉は、「スコトーマが外れた」や「スコトーマにとらわれている」といった表現でよく使われ、しばしば「あると困るもの」や「なくしたほうがよいもの」として捉えられがちです。

しかし、スコトーマの本来の意味は「認識の盲点」であり、私たちの脳が膨大な情報の中から何を選んで見るか、何を見ないかを決めるフィルターの役割を果たしています。
このフィルターがあるおかげで、必要な情報に集中でき、日常生活を円滑に送ることができるのです。

つまり、問題は「スコトーマがあるかどうか」ではなく、「何が見えなくなっていて、何に焦点が合っているのか」という点にあります。

ここで、会社で初めて大きなプレゼンを任された場面を想像してみましょう。

慣れない会議室、いつもより多い参加者、前方には社長や役員の顔。
資料の内容も複雑で、持ち時間も厳密に決められています。
このような状況は、あなたのコンフォートゾーン、つまり「安心していられる状態」から大きく外れています。

コンフォートゾーンを外れると、脳は「いつもと違う」「失敗してはいけない」と緊張します。
その結果、本来見えているはずの情報や、覚えていたはずの言葉が急にすり抜けていくように感じられます。

準備していたフレーズが突然出てこなくなったり、何度も確認した数字を言い間違えたり、会議室全体の空気よりも、たまたま退屈そうにしている一人の表情ばかりが目について、頭が真っ白になることもあるかもしれません。

プレゼンが終わったあとに「なんであんなミスをしたのか分からない」と感じるのは、まさにスコトーマが強く働いた結果です。
その瞬間、脳のフィルターが「緊張」や「不安」に意識を向け、必要な情報を拾い損ねていた、と考えると分かりやすいかもしれません。

こうした話を聞くと、「やっぱりスコトーマはやっかいなものだ」と思うかもしれません。
しかし、視点を変えれば、スコトーマはゴール達成の強力な味方にもなります。

鍵となるのは、「ゴールに関係のないものを、意図的にスコトーマの外側に追いやる」という考え方です。
つまり、意識して「見ないもの」を選び取るということです。

例えば、健康を維持するためにダイエットを始めるとします。
その際、周囲から「どうせ続かないよ」と言われたり、SNSでスイーツの写真を見たり、過去のダイエット失敗を思い出すと、行動する前に心が折れてしまうことがあります。

そこで、「これらは自分のゴールに直接関係ない情報だ」と割り切り、意識から外してみます。
その代わりに、同じような体型から健康的に変わった人の体験談や、無理なく続けられる運動の工夫、自分の進歩を記録したものなど、ゴールに近づくための情報を積極的に取り入れます。

すると、スコトーマは「自分には無理だ」という証拠を探すフィルターから、「続ければ結果が出る」という根拠を集めるフィルターに変わります。
情報が変わることで、自然と行動も変わり、その積み重ねがゴール達成への道を作ります。

ここで注意したいのは、「ネガティブな現実からすべて目をそらせばいい」というわけではないことです。
現実的に向き合うべき問題や、対処が必要な課題を無視するのは健全ではありません。

重要なのは、「ゴール達成に本当に必要なネガティブな情報」と、「ただ気分を落ち込ませるだけのネガティブさ」を区別することです。
そして、後者にはできるだけエネルギーを使わないようにします。

例えば、ニュースやSNSを見ているうちに、将来への不安が膨らんで何も手につかなくなることがあります。
職場で愚痴や噂話を聞き続けると、まだ起きてもいないトラブルに心が引きずられ、やる気が削がれることもあります。
過去の失敗を何度も思い出し、「どうせ自分なんて」と感じてしまう人もいるでしょう。

そんなとき、心の中で一度立ち止まり、
「これは今の自分のゴールに関係があるだろうか」
「これを考え続けることは未来の自分に役立つだろうか」
と問いかけてみます。
もし「ほとんど関係ない」と感じるなら、それはスコトーマに隠してしまってよいネガティブさです。

すると、同じ時間とエネルギーを、より建設的なことに使えるようになります。
新しいアイデアをメモしたり、小さな行動を試したり、体を休めたり、家族や友人との会話を楽しんだりして、明日に向けて心身を整える選択がしやすくなります。

私たちは日々、無数の選択をしています。
朝目覚めてから夜眠るまで、何を食べるか、どんな情報を得るか、誰と話し、どんな言葉を使うかを決めています。
その一つひとつの選択において、「ネガティブなものを避ける」という姿勢を持つことが可能です。

例えば、気分が落ち込むと分かっていながら、つい習慣的にSNSで他人と自分を比較してしまうことがあります。
「できない理由」を探す癖がついていると、挑戦する前から心が重くなり、力を出し切る前に諦めてしまうかもしれません。

そんな「自分を疲れさせる選択」に気づいたら、「今回は違う選択をしてみよう」と静かに方向を変えてみましょう。
不安を煽る情報を追う代わりに、ゴールに関連する本を一章だけ読んでみる。
他人の成功と自分を比べる代わりに、「今日はどんな小さな進歩があったか」を振り返ってみる。
このような小さな選択の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらします。

スコトーマとは、元来「見えなくする力」を指します。
この力を、「自分には無理だ」という証拠を見えにくくするためではなく、「ゴールに向かう自分を支える情報」を残し、それ以外を背景に下げるために活用できます。

結局のところ、スコトーマは「存在するかどうか」よりも、「どのように使うか」が決定的に重要です。
あなたがゴールを基準にして、何を見るか、何を見ないかを選び始めると、同じ現実の中でも、見える世界は少しずつ変わっていきます。

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この記事を書いた人

苫米地式コーチング認定コーチ/苫米地式コーチング認定教育コーチ/TICEコーチ/PX2ファシリテーター。 苫米地英人博士から指導を受け、青山龍ヘッドマスターコーチからコーチングの実践を学び、世界へコーチングを広げる活動を実施中。あなたのゴール達成に向けて強力にサポートします。

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