「自分はまだまだだ」「自信を持つのは早い」
もしあなたがそう感じているなら、それは能力が足りないからではないかもしれません。
実は、あなたの脳が”過去の記憶”を材料にして、今の現実を合成しているからなのです。
今日は、なぜ私たちが自分を過小評価しやすいのか、そしてどうすればその傾向を変えられるのかについてお伝えします。
「今、見ている世界」は記憶から合成されている
私たちが「今、見ている世界」は、目の前の事実そのものではありません。
実際には、過去の記憶を材料にして合成された”解釈”によって、現在の認識がつくられています。
だからこそ、同じ出来事を経験しても、人によって感じ方や意味づけが変わるのです。
たとえば、上司から「もう少し工夫できそうだね」と言われたとき。
ある人は「自分を否定された」と感じ、別の人は「成長のヒントをもらえた」と受け取ります。
状況は同じでも、過去の記憶によってつくられた”解釈のフィルター”が違うと、見える景色がまったく変わってしまうのです。
なぜネガティブな記憶ばかり残りやすいのか
そして、この記憶には厄介な特徴があります。
どうしてもネガティブな記憶の割合が多くなりやすいのです。
これは性格や根性の問題というより、人間の仕組みに近い話です。
人類が誕生してから長い時間、最大の関心事は「生き延びること」でした。
危険な場所を避け、痛い経験を繰り返さず、損失を回避することが、生命維持に直結していたからです。
そのため脳は、安心よりも危険に敏感に反応しやすく、ポジティブよりもネガティブを強く記憶しやすい傾向を持っています。
これは「弱いから」ではなく、「生き残るために合理的だった」名残です。
つまり、あなたがネガティブなことを覚えやすいのは、あなたの脳が正常に働いている証拠でもあるのです。
「できたこと」より「できなかったこと」が目につく
この仕組みがあるため、私たちは日常の中で、自然と自分を厳しく評価しがちです。
たとえば、仕事でうまくいったことがいくつもあったのに、帰り道に思い出すのはたった一つのミスだけ──そんな経験はありませんか。
事実としては「できたことの方が多い」のに、頭の中では「結局まだまだだ」という結論に引っ張られてしまう。
そうして、セルフトーク(頭の中のつぶやき)も、「また失敗するかもしれない」「自信を持つのは早い」といった方向に寄りやすくなります。
でもこれは、あなたの価値が低いから起きているのではありません。
単に、あなたの認識をつくる材料が”危険重視”に偏りやすい、という仕組みの問題なのです。
「過大評価くらいでちょうどいい」理由
ネガティブ寄りの記憶で合成された認識を放っておくと、自分を過小評価する方向へ傾きがちです。
だからこそ、意識的にバランスを取りにいく必要があります。
コーチングの世界では、こう捉えます。
「これで良いの?」と思うくらいの前向きな自己評価で、ようやく釣り合う。
すでに私たちの内側には”過小評価のフィルター”が入りやすいのだから、普通に評価すると、結局マイナスに引っ張られてしまう。
だからこそ、少し大げさなくらい自分を評価して、ちょうどバランスが取れるのです。
自分を信じすぎて損をすることは、ほとんどありません。
むしろ、信じ足りないことで、本来の可能性を発揮できないほうがもったいないのです。
記憶の「配合」を変えれば、現実の見え方が変わる
認識を変えるために、いきなり大きな自信を作ろうとしなくて大丈夫です。
ポイントは、現在の認識をつくる「材料」を増やすことです。
材料が増えれば、合成された認識も変わります。
車で言えば、燃料の配合を変えるようなものです。
ネガティブな記憶ばかりが燃料だと、走り方も重くなります。
ポジティブな記憶を少しずつ足していくと、同じエンジンでも軽やかに動き始めるのです。
だからこそ、日々の中で「できた記憶」を意識的に拾い上げていくことが大切です。
今日からできる三つの実践
では、具体的にどうすれば良いのでしょうか。
今日から始められる三つの方法をご紹介します。
1. 一日の終わりに「できたこと」を三つ思い出す
寝る前に、今日うまくいったこと、嬉しかったことを三つだけ思い出してください。
大きなことでなくて構いません。
「電車に間に合った」「美味しいコーヒーを飲めた」「仕事を一つ終えられた」
そのとき感じた小さな満足感も一緒に味わうと、ポジティブな記憶として脳に残りやすくなります。
2. 「そのとき自分が工夫したこと」を添える
できたことを思い出すだけでなく、「自分がどう工夫したか」まで振り返ると、さらに効果的です。
「今日は少し早めに家を出たから、電車に間に合った」
「いつもと違うお店を試してみたから、美味しいコーヒーに出会えた」
こうすると、「うまくいったのは偶然ではなく、自分の行動のおかげだ」と認識できます。
すると、「次もできそう」という自信につながっていきます。
3. 明日の自分にかけたい一言を用意する
最後に、明日の自分に向けて一言だけ言葉を用意してみてください。
「明日も自分のペースで進もう」
「今日できたことを、明日も続けてみよう」
小さな言葉ですが、この積み重ねがセルフトークを変え、やがて自己評価そのものを変えていきます。
あなたは、もっと自分を信じていい
あなたは、今の認識だけで自分を決めつけなくていい。
今の認識は、過去の記憶の合成であり、しかもネガティブが濃く入りやすい仕組みを持っています。
だからこそ、意識的にポジティブな材料を増やしていく必要があるのです。
同じ一日でも、「今日はダメだった」ではなく「今日はここまで進んだ」という見え方が育っていくと、セルフトークも変わります。
「意外とやれてる」「次はもっとうまくできそう」「自分を信じて進もう」
こうした言葉が増えるほど、行動は軽くなり、挑戦が自然なものになっていきます。
今日から、ほんの少しだけ。
自分への評価を、一段階だけ上げてみてください。
その小さな変化が、あなたの未来を静かに、しかし確実に変えていきます。
あなたには、そうできるだけの力がすでにあるのです。
