あなたの世界は「重要だと思った情報」でできている

周囲を見回すと、同じ場所にいるにもかかわらず、人それぞれが異なる世界を見ていることに気づきます。
忙しそうに歩くビジネスパーソン、ベビーカーを押す親、観光を楽しむ旅行者。
それぞれが自分にとって重要なものを選び取りながら、同じ街を歩いています。

これは単に性格や趣味の違いだけでなく、脳の働きによるものです。
あなたの世界は、「あなたが重要と感じる情報」でほぼ構成されています。

私たちの脳は、瞬間ごとに膨大な情報にさらされています。
目に映る景色、人の表情、周囲の音や話し声、スマホの通知、自分の身体の感覚。
これらすべてを同時に意識していたら、情報過多で疲れてしまうでしょう。

そこで「RAS(網様体賦活系)」というフィルターシステムが働きます。
RASは脳幹の基底部にあり、膨大な情報の中から「今の自分にとって重要」「今は後回しでいい」と判断します。
情報の門番であり、フィルター役です。

例えば、新しく赤い車を買おうと決めた途端、街中で赤い車ばかりが目につくことがあります。
それ以前も赤い車は走っていたのに、意識が向いた瞬間から、街全体の色が変わったように感じるかもしれません。
また、子どもが生まれてから、「授乳室あり」「ベビーカーOK」といった表示が自然に目に入るようになった経験を持つ方もいるでしょう。

周囲の世界が急に変わったわけではありません。
変わったのは、あなたの中の「これは自分にとって重要だ」という基準です。
RASはその基準に従って、何を見せ、何を無視するかを決めています。

フィルターがあるということは、見えているものと同じくらい、見えていないものも存在するということです。
この見えなくなっている部分を「スコトーマ(盲点)」と呼びます。

スコトーマという言葉は、もともと眼科で使われる用語で、視野の一部が見えない状態を指します。
しかし、コーチングや認知科学の分野では、この概念が拡張され、実際には存在しているのに脳のフィルターによって認識されない情報を指すようになりました。
これは視覚情報だけでなく、聴覚、触覚、言葉など、五感を通じて受け取るすべての情報を含みます。

例えば、自信がないとき、「自分は大したことがない」という思い込みが強いと、過去の成功や感謝された経験を思い出しにくくなることがあります。
「ありがとう」と言われたことがあったはずなのに、記憶が薄れたり、軽視してしまうこともあるでしょう。
上司に褒められた経験があっても、「どうせお世辞だ」と決めつけて、心に留めないこともあります。

情報自体が存在しないわけではなく、「自分にとって重要ではない」というラベルが貼られた結果、RASによって意識から外されているのです。
これがスコトーマです。
スコトーマは悪いものではなく、限られた注意力の中で日常生活を送るために必要な仕組みでもあります。

ここで重要なのが「ゴール」という考え方です。
RASというフィルターは完全に自動で働いているわけではなく、「何を大事だと感じているか」「どんな未来を目指しているか」といったゴールや価値観が影響を与えています。

まず「こうなりたい」「こんな人生を送りたい」というゴールがあり、そのゴールに関連する情報だけが「重要」として浮かび上がってきます。
この順番で世界が見え始めるため、「ゴールが先、認識は後」という表現ができます。

例えば、「健康維持のために一年後にフルマラソンを完走する」と決めた人を想像してみてください。
それまでは興味がなかったランニングシューズの広告が急に気になり始めます。
テレビでストレッチの特集を見れば、「これ、走る前後に使えそうだ」と思うかもしれません。
公園で走っている人を見かけると、「フォームがきれいだな」「どんな練習をしているんだろう」と目で追ってしまいます。

決める前と後で世界そのものが変わったわけではありません。
フルマラソンというゴールを設定したことで、それまでスコトーマに隠れていた情報が意識に上がるようになったのです。

逆に、ゴールが曖昧なままだと、RASは「何を重要な情報として扱えばいいのか」が分かりません。
その結果、「なんとなく不安だけれど、何を変えたらいいのか分からない」という感覚に陥りやすくなります。
世界にはたくさんのヒントやチャンスがあるのに、それが自分の目には届かない状態です。

私たちの認識は、脳のフィルターであるRASと、それによって生じるスコトーマによって形成されています。
このフィルターがどのように機能するかは、私たち自身のゴールや価値観によって決まります。

だからこそ、「本当に持ちたいゴールは何か」を意識的に選び直すことが重要です。
「どんな仕事をしたいのか」「どんな人間関係を築きたいのか」「どんな日常を送りたいのか」を考えましょう。
具体的な言葉にならなくても、ノートに思いつくまま書き出したり、コーチと話したりすることで、少しずつゴールの輪郭が明確になり、それがRASへの新たな指示となります。

例えば、「健康を維持したい」と意識すると、自然と食事や睡眠、運動に関する情報に目が向くようになります。
「家族との時間を大切にしたい」と決めると、仕事の仕方や予定の組み方、休日の過ごし方を見直すきっかけが増えます。
どちらも、世界が変わったのではなく、あなたのフィルターが変わったのです。

重要なのは、現状の延長線上で達成できそうな「無難なゴール」だけでなく、現状を超えた「本当に望むゴール」を描くことです。
最初は実感が薄くても、繰り返し言葉にし、イメージすることで、RASは少しずつ基準を変え、これまで見えなかったチャンスや出会いが偶然のように現れ始めます。

「具体的に何をすればいいの?」と感じるかもしれませんが、難しく考える必要はありません。
まずは一日のどこかで、自分のゴールについて静かに考える時間を数分でも取ってみてください。
朝起きてすぐや寝る前の数分でも構いません。

その際、「こうしなければならない」という義務感ではなく、「本当はどんな自分でいたいのか」「どんな世界に貢献したいのか」といった前向きな問いを自分に投げかけてみましょう。
浮かんだことをノートに書き留めておくと、後で見返したときに自分の変化を感じやすくなります。

ゴールを意識する時間が増えるにつれて、ニュースの見方や人の言葉の受け取り方が変わっていることに気づくかもしれません。
「以前は気にもしなかったことが、今は妙に気になる」。
この変化は、RASが新しいゴールに合わせて働き始めているサインです。

あなたの世界は、あなたが重要だと「決めた」情報によって形作られています。
その背後では、RASというフィルターとスコトーマという盲点が働いています。
そして、そのフィルターの基準を決めているのが、あなた自身のゴールです。

だからこそ、まずはゴールを設定することが重要です。
自分が本当に望む未来を言葉で表現してみましょう。
そのゴールを意識する時間を少しずつ増やしていくと、日常の中で新たな情報やチャンスが見えてくるようになります。

マインド(心と身体)のメカニズムを理解し、それを意識的に活用することは、特別な才能ではありません。
誰でも今日から始められる習慣です。
あなたのゴールを達成するために、あなたのフィルターがどのような世界を見せているのか、一度じっくりと観察してみてください。

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この記事を書いた人

苫米地式コーチング認定コーチ/苫米地式コーチング認定教育コーチ/TICEコーチ/PX2ファシリテーター。 苫米地英人博士から指導を受け、青山龍ヘッドマスターコーチからコーチングの実践を学び、世界へコーチングを広げる活動を実施中。あなたのゴール達成に向けて強力にサポートします。

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