先日、知人と何気ない会話をしていると、「5年後にはどんなことをしていると思う?」という話題が出ました。
その知人は会社員で、最近人事異動があったばかりだそうです。
新しい部署に移ったことで、これまで「なんとなく」続けてきた仕事を見直す機会が生まれ、「このままでいいのか」「自分はどの方向に進みたいのか」と、将来について真剣に考えるようになったと話してくれました。
その話を聞きながら、まさにスコトーマ(心理的な盲点)が外れた瞬間だったのだと感じました。
それまで見えていなかった選択肢や可能性が、環境の変化をきっかけに急に見え始めたのです。
そこから、「自分はこういう方向へ進みたい」と、大まかな道筋が見えてきたのだそうです。
彼の表情には、不安だけでなく、どこかすっきりとした明るさがありました。
ここで、あなた自身の状況にも目を向けてみてください。
今、あなたが取り組んでいる仕事は、あなたにとってどのような意味を持っているでしょうか。
生活のために仕方なく続けているものなのか。
それとも、やりたくて仕方ないことの中で、たまたま報酬が発生しているものなのか。
コーチングの視点から見ると、仕事とは本来、やらずにはいられないほど好きなことや、取り組んでいると自然にエネルギーが湧いてくるようなことの延長線上にあることが理想的です。
その中で、社会との価値の交換として報酬が生まれる。そんなイメージです。
もし今の仕事が、「やらなければならないからやっている」という感覚に支配されているなら、それはゴールの中心には置きにくいかもしれません。
ゴールは、本来「本当にやりたいこと」の延長にあるからです。
とはいえ、今すぐ仕事を辞めたり、人生の方向性を劇的に変えたりする必要はありません。
重要なのは、今の仕事と、自分が心から望んでいるゴールとの関係性を、まずは自分自身がしっかりと認識しているかどうかです。
特に会社員の方にとって、会社のゴールと自分自身のゴールがどのように関連しているかを再評価することは非常に意義深いです。
企業には独自のゴールやビジョン、方針がありますが、あなた自身にも「こうありたい」「こんな人生を送りたい」という個人的なゴールがあります。
この二つがどのように交わっているのか、一度じっくりと考えてみてください。
例えば、あなたの個人的なゴールが非常に大きく、その一部として「現在の会社で働くこと」が含まれている場合があります。
この場合、会社のゴールはあなたの大きなゴールの一部となり、今の職場はあなたのゴールを達成するための一つのステージや手段、あるいはステップの一つとして捉えられるでしょう。
一方で、会社のゴールが圧倒的に強く、自分のゴールがその中にすっぽりと収まっていることもあります。
会社の成長やゴールの達成がそのままあなたの人生のゴールとなっている状態です。
もしそれを心から望み、やりがいや喜びを感じているなら、それは非常に幸せな形と言えるでしょう。
しかし、実際には他にやりたいことがあるのに、「会社のため」「期待を裏切らないため」と自分に言い聞かせて、その気持ちを抑えていることもあります。
そんなときに感じる小さな違和感は、実はあなた自身の本音が訴えているサインかもしれません。
あなたのゴールと会社のゴールが明らかに異なる方向を向いていることもあります。
例えば、「家族との時間をもっと大切にしたい」と思っているのに、会社の方針が「数字最優先で長時間働いて結果を出す」という方向に強く傾いている場合です。
頭では「家族が大切」と理解していても、現実には連日の残業で家にほとんどいない。
心のどこかで罪悪感や寂しさを抱えながら、「今だけだから」と自分に言い聞かせて日々を過ごしている。
そんな状態が続くと、見えない形でエネルギーが消耗していきます。
また、「将来は自然の多い場所で暮らしたい」「もう少しゆったりとしたペースで仕事をしたい」と心のどこかで願っているにもかかわらず、会社の方向性が「大都市でのキャリアアップ」「さらに責任の重いポジションへ」という一本道しか用意していないこともあります。
その場合、心の奥では常に「このまま進んで本当に大丈夫なのか?」という問いが鳴り続けることになります。
ゴールが衝突しているとき、人は無意識に自分を抑制してしまいます。
努力しているつもりでも、どこかで力が抜けたり、急にやる気が失せたりするのは、その矛盾が影響しているのかもしれません。
だからこそ、一度リラックスして、深呼吸しながら静かに自分に問いかける時間を持ってみてください。
今の仕事は、自分のゴールとどう結びついているのか。
この会社で働き続けることは、自分にどんな未来をもたらすのか。
そして、5年後の自分はどんな表情で、どこで、誰と、どのような一日を過ごしていたいのか。
特別な場所を用意する必要はありません。
お風呂に浸かっているとき、通勤電車の中、寝る前の数分間など、心がふっと緩む瞬間で十分です。
少しだけ具体的に、5年後の自分をイメージしてみましょう。
平日の朝、目が覚めたとき、あなたはどこで目を覚ましているでしょうか。
慌ててスマートフォンのアラームを止め、急いで満員電車に飛び乗る日々でしょうか。
それとも、少し余裕を持って起き、コーヒーを飲みながら、その日に取り組みたい仕事や活動を自分で選んでいるでしょうか。
一日を終えて家に帰る頃、あなたの周りには誰がいて、どんな会話をしているでしょうか。
「今日もクタクタで何もできない」とソファに倒れ込んでいる自分でしょうか。
それとも、「今日はこんなことがあってね」と、少し誇らしさやワクワクを感じながら一日の出来事を誰かに話している自分でしょうか。
こうして思い浮かべる一つひとつの場面は、すべて「あなた自身の時間」です。
誰かの期待を満たすためだけの時間ではなく、あなたの心が本当に望む時間です。
最後に、視点を少しだけ変えてみましょう。
今の自分が未来を想像するのではなく、理想の5年後の自分が、現在のあなたを眺めているとしたらどうでしょうか。
その5年後のあなたは、今のあなたにどんな言葉をかけるでしょうか。
「そのまま進んで大丈夫。その経験は全部、今の私につながっているよ」と、力強く背中を押してくれるかもしれません。
あるいは、「そろそろ、本当にやりたいことに正直になってもいいんじゃない?」と、やさしく微笑みながら声をかけてくれるかもしれません。
どんな言葉が浮かんでくるにせよ、それはあなた自身の心の奥にある本音が、未来の自分の姿を借りて語りかけているものです。
5年後のあなたは、何をしているでしょうか。
どこで、誰と、どんな気持ちで一日を終えているでしょうか。
その問いを自分に投げかけてみることが、今の仕事との付き合い方を見直し、新しいゴールの形を描き始めるきっかけになるはずです。
