私たちは、目の前のすべてをそのまま見ているわけではありません。
実際には、自分が「重要だ」と感じたものだけを選んで認識しています。
つまり、「自分には関係ない」「あまり重要ではない」と判断したものは、存在していても見えていないのと同じです。
コーチングの世界では、この「見えていない領域」を「スコトーマ(心理的な盲点)」と呼びます。
例えば、新しい車を買おうと「赤いコンパクトカーがいいな」と思い始めると、急に街で赤いコンパクトカーが目につくようになります。
それまでも同じように走っていたはずなのに、「自分にとって重要な情報」になった途端、世界が少し違って見え始めます。
これは、スコトーマが一部外れた状態です。
情報そのものはずっと前から存在していたのに、「意識の焦点」が変わることで、見える世界が変化していきます。
スコトーマは特別な人だけに起こるものではなく、誰にとっても当たり前のように働いているフィルターのようなものです。
だからこそ、「自分には見えていない領域が必ずある」という前提に立つことが、成長の第一歩になります。
忙しい日々の中で、私たちは「今日をなんとかやり過ごすこと」に意識を向けがちです。
仕事や家事、子育て、家庭の用事、親や友人との付き合い、気がつけばスマホの通知にも常に反応している。
こうした日常のタスクだけに意識を奪われていると、人生は「昨日の延長を今日もやっているだけ」のように感じやすくなります。
ふと立ち止まってみると、昨年とほとんど変わらない毎日を過ごしていることに気づくことがあります。
いつも似たような悩みを抱え、同じような不満を口にしながらも、特に大きな変化は起きていない。
心のどこかで「このままでいいのかな」と感じつつも、日常に流されてしまう。
そうなってしまうのは、日々の出来事だけに意識がロックオンしてしまい、新しい可能性やチャンスにスコトーマがかかっているからです。
本当は周りでいろいろな変化やチャンスが起きているのに、それに気づく余裕がなくなっている、とも言えます。
たとえあなた自身の生活が「過去の繰り返し」に見えたとしても、周囲の環境は確実に変化し続けています。
テクノロジーは日々進化し、働き方も変わり、家族のライフステージも移り変わっていきます。
会社の方針が変わったり、部署が再編されたり、身近な人が転職や独立を決めることもあるでしょう。
健康状態や体力、価値観の変化も、時間とともに静かに進んでいきます。
つまり、「何も変わっていないように見える日常」も、実際には少しずつ姿を変えています。
だからこそ、その変化の中で、自分がどう在りたいのか、どう学び、どう成長していきたいのかを意識しておくことが、これからの人生の質を大きく左右します。
変化が緩やかな時代には、過去の成功法則をそのまま繰り返すだけでも何とかやっていけたかもしれません。
しかし、現代のように仕事の内容や必要なスキル、情報の流れが急速に変化する時代には、過去の成功法則に頼るだけでは次第に難しくなってきます。
このような変化の中で重要なのは、「自ら積極的に学び続ける姿勢」です。
過去の経験に固執するのではなく、新しい知識や考え方、人とのつながりを取り入れることで、変化を味方にすることができます。
学びとは、必ずしも難しい本を読んだり、高価なセミナーに参加することだけを指すわけではありません。
日常の中で「ちょっと気になる」「少し面白そうだ」と感じたものに一歩近づいてみることも、立派な学びです。
その小さな一歩が、視野を広げるきっかけになります。
では、どうすれば視野が広がり、受け取れる情報が増えるのでしょうか。
その鍵は、「ワクワクする感覚」を大切にすることです。
例えば、本屋で用事のあるコーナーとは別の棚に、なぜか目を引く本が並んでいることがあります。
タイトルが心に引っかかったり、装丁が気になったりするのは、あなたの中のアンテナが反応しているサインです。
その瞬間に「忙しいから」「関係なさそうだから」と通り過ぎてしまえば、視野はそのままです。
しかし、ほんの数分でも足を止めて本を手に取り、目次を眺め、最初の数ページをめくるだけで、あなたの世界には新しい情報が加わります。
同様のことは、日常のさまざまな場面で起きています。
通勤途中に目に入った新しいお店、同僚が何気なく話した趣味の話、SNSで偶然流れてきた専門外の分野の記事。
少しだけ興味を向けてみると、そこから新しい学びや出会いが始まることがあります。
このように、「なんとなく気になる」「ちょっと面白そう」という感覚を大切にし、意識的に拾い上げることで、あなたのアンテナは少しずつ鍛えられていきます。
何かを学ぶときに心が躍ると、自然と集中力が高まり、同じ情報でもより深く理解できるようになります。
例えば、同じ講師のセミナーを2回受けた場合、1回目と2回目で心に残るポイントが異なることがあります。
1回目には「良い話だな」と思っていた言葉が、2回目には「今の自分に必要なメッセージだ」と強く心に響くことがあります。
これは、あなた自身が成長し、同じ情報からより多くの意味を引き出せるようになった証です。
本を再読したときにも同様のことが起こります。
以前は気づかなかった部分が、久しぶりに読むと「なぜこの重要な部分に気づかなかったのだろう」と思うほど深く心に刺さることがあります。
変わったのは本の内容ではなく、それを受け取るあなた自身です。
成長したことで、より多くの情報や意味を受け止められるようになったのです。
ワクワクしながら学ぶ習慣を持つと、この「器」はどんどん広がります。
同じ出来事に出会っても、他の人にはただの「通り過ぎる出来事」にしか見えないものが、あなたには大きなヒントやチャンスとして映るようになります。
ワクワクを大切にしながら学び続けると、あなたの感受性はますます高まり、繊細になります。
すると、以前は見過ごしていたような小さなサインにも気づけるようになります。
誰かの何気ない一言の中に、今の自分に必要な示唆を見つけたり、ニュースの片隅に載っている短い記事から将来のヒントを読み取ったりできるようになります。
同じニュースを見ても、そこから受け取るメッセージや行動のアイデアは人によって大きく異なります。
これは、見えている世界の解像度の違いと言えるでしょう。
こうして、一つの学びが次の学びを呼び、さらに深い気づきへとつながっていきます。
学べば学ぶほど新しい疑問や興味が生まれ、その興味がまた別の世界への扉を開いてくれます。
その繰り返しが、あなたの成長の階段をゆっくりと、しかし着実に上へと運んでくれます。
人は、自分が重要だと思ったものしか認識できません。
だからこそ、「何を重要とみなすのか」「どこにワクワクを感じるのか」を意識して選ぶことが、これからの人生を豊かにする鍵になります。
日常の忙しさに埋もれていると、生活はどうしても過去の繰り返しになりがちです。
しかし、私たちにはいつからでも学び直し、成長し直すことができるという、心強い事実があります。
今日から少しだけ、「なんだか気になる」「ちょっと面白そう」と感じたものに目を向けてみてください。
その小さなワクワクが、スコトーマを少しずつ外し、あなたの世界を広げ、学びを深めてくれます。
気づけば、同じ毎日を生きているようでいて、見えている世界も、感じている手応えも、確かに変わっているはずです。
