心のつぶやきで変わる思考と行動

コーチングの基本の一つとして、「セルフトーク(心の中のつぶやき)を管理すること」が挙げられます。
もし、誰かの何気ない一言に対して「今の言葉、ちょっと気になるな」と感じることがあるなら、それはすでに高度なスキルを持っている証拠です。

多くの人は、日々多くの言葉に触れながらも、それをほとんど意識せずに流しています。
しかし、何気ない一言に心が動いたり、「この言葉は自分にとってプラスかマイナスか」と立ち止まって考えられる人は、言葉と自分の感情を分けて観察できているのです。

これはセルフトークを扱う上で非常に重要なステップです。
なぜなら、「言葉に気づく」ということは、その言葉をそのまま受け入れるのではなく、自分で選び直すことができる立場にいることを意味するからです。

セルフトークを意識的にコントロールし続けると、徐々に「世界の見え方」が変わってきます。
それは偶然ではなく、私たちが世界を「言葉」を通して理解しているからです。

例えば、スーパーで買い物をしている場面を想像してみてください。
同じ棚の前に立っていても、「これは高いからやめておこう」と考える自分と、「今日は自分へのご褒美に、少しいいものを買おう」と考える自分では、目に入る商品や気分が全く異なります。
実際には、棚に並んでいる商品は変わっていません。
変わっているのは、その商品に対して自分がどんな「言葉」を使っているかです。

通勤中に道を歩いているときも同様です。
「また今日も仕事か……」というセルフトークが頭をよぎれば、景色はどこか灰色に見えるかもしれません。
しかし、「今日の仕事を終えたら、帰りにお気に入りのカフェで一息つこう」と考えれば、同じ通勤路でも足取りが軽く感じられるでしょう。

私たちは、買い物をするときも、道を歩くときも、家族と話すときも、上司に報告するときも、常に「言葉で形作られた世界」の中にいます。
あなたの生活空間全体が、目に見えない「言葉のフィルター」を通して意味づけされていると言えるかもしれません。

コーチングでは、ゴール達成のために「ゴール側の臨場感を高めること」が重要だとよく言われます。
ここでの臨場感とは、「まるでその場にいるかのように感じる現実感」のことです。

この臨場感を高める際にも、言葉が大きな役割を果たします。
例えば、「英語を話せるようになりたい」というゴールを、「海外のクライアントと自然な英語で笑いながらプロジェクトの話をしている自分になりたい」と表現し直すとどうでしょうか。
具体的な場面が一気にイメージしやすくなります。
月曜の朝、オフィスの会議室で、相手の表情や自分の声のトーン、会話のテンポまで想像できるかもしれません。

「自信を持ちたい」という表現も、「会議で堂々と自分の意見を伝え、会議後に『今日はよくやりきったな』と心の中でつぶやきながら、穏やかな笑顔で席に戻る自分でいたい」と描き直すと、感情に触れるシーンになります。

このように、ゴールを言葉の力で鮮明に描くほど、そのゴール側のリアリティは高まります。
臨場感が高まるほど、日々の選択や行動は、無理に努力しなくても、自然とゴールに向かって進んでいきます。

「自分は常に言語の世界で生きている」と実感できると、セルフトークを整えることの意味や価値がより深く理解できるはずです。

世界が言葉によって形作られているという前提に立つと、セルフトークをコントロールすることがどれほど強力な方法かが見えてきます。

同じ出来事に直面したとき、「やっぱり自分には無理だ」とつぶやくか、「今回はうまくいかなかったけれど、次に試せることが一つ見つかった」と言い換えるかで、その後の行動は大きく変わります。
前者の言葉は、自分の行動範囲を狭め、視野を閉じてしまいます。後者の言葉は、次の一手に意識を向け、失敗を経験として取り込む方向にマインドを導いてくれます。

誰かの何気ない一言が心に引っかかったときも同じです。
「なんであんなことを言われなければならないんだ」と、その言葉を何度も反芻すると、相手の言葉に自分の心が支配されてしまいます。
そこで一度立ち止まり、「今の言葉を、私はどう受け取りたいだろう」「この出来事を、これからの自分に役立つ意味として捉え直すとしたら、どんな言葉に変えられるだろう」と、自分側のセルフトークに意識を向けてみてください。

その瞬間、あなたは「言葉に振り回される側」から、「言葉を選ぶ側」へと立場を変えています。
この小さな切り替えを積み重ねていくことで、現実の感じ方や行動の選択肢は、静かに、しかし確実に変わっていきます。

セルフトークは、特別なときだけ使うものではありません。
買い物をするときも、道を歩くときも、仕事をしているときも、家族と過ごすときも、眠りにつく直前の数分間も、常に流れ続けています。
だからこそ、その質を少しずつ整えていくことは、人生全体の質を向上させる、非常に効率的な取り組みだと言えるのです。

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この記事を書いた人

苫米地式コーチング認定コーチ/苫米地式コーチング認定教育コーチ/TICEコーチ/PX2ファシリテーター。 苫米地英人博士から指導を受け、青山龍ヘッドマスターコーチからコーチングの実践を学び、世界へコーチングを広げる活動を実施中。あなたのゴール達成に向けて強力にサポートします。

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