新しい習慣やゴールに向けて動き出した。
最初の数日は走れた。しかし、しばらくするとこんな感覚が顔を出します。
「新しいやり方に切り替えたのに、気づくと前のやり方に戻っている」
「前向きに動き出した直後に、なぜか不安や迷いが押し寄せてくる」
「うまくイメージできた日ほど、翌日に『やっぱり無理だ』という声が強くなる」
意志が弱いからではありません。
脳と心に備わった「現状維持装置」が、変化を元に戻そうとしているのです。
ホメオスタシス──あなたを守る現状維持装置
この「元に戻す力」を、ホメオスタシス(恒常性維持機能)と呼びます。
もともとは生理学の用語です。
体温が上がれば汗をかいて冷やす。下がれば体を震わせて温める。
血糖値が上がればインスリンを出して下げる。
このように、体の内部環境を一定の範囲に保つために、自動的に働く調整機能がホメオスタシスです。
おかげで、私たちは外部環境が変わっても、生命を維持できています。
つまり、ホメオスタシスはあなたを守るために存在しているのです。
変化を元に戻そうとするのは、故障ではなく、正常に働いている証拠なのです。
それは、マインドにも働いている
ここからが重要なポイントです。
ホメオスタシスは、体温や血糖値だけでなく、マインドにも働きます。
「いまの自分」──いまの自己イメージ、いまの習慣、いまの人間関係。
脳はこれらを「正常な状態」と見なし、そこから外れようとすると、元に戻そうとします。
新しいことを始めたとき、「やっぱり前のままでいい」と感じる。
良い変化のはずなのに、なぜか落ち着かず、不安になる。
これらはすべて、マインドのホメオスタシスが「いつもの自分」を守ろうとしているサインです。
変化が「悪いこと」だからではありません。脳にとっては、「いつもと違う」こと自体が、戻すべき対象なのです。
根性ではなく、仕組みに沿って変える
この力を理解せずに変わろうとすることは、強い逆風の中を無理やり進もうとするようなものです。
だから、意志の力だけで突破しようとすると、続きません。
大切なのは、根性で逆らうのではなく、仕組みに沿って変えること。
ここで効いてくるのが、ゴール側の自分を、ありありとイメージし続けることです。
心から望む(want to)ゴールほど、その姿はリアルに描けます。
無理に現状を否定しなくても、行きたい未来の方を鮮明にしていけばいいのです。
そのイメージを繰り返し、ゴール側の自分として行動していると、脳の「正常な状態」の基準点そのものが、少しずつ移動していきます。
ホメオスタシスは「古い基準」を守ろうとしますが、基準が新しくなれば、今度はその新しい状態を守ろうと働き始めるのです。
つまり、現状維持の力を、ゴール側に味方として引き込めるということです。
引き戻しを、成長の証拠として受け取る
「やっぱり無理だ」と感じる日があっても、それは失敗ではありません。
安心できる領域の外に出たからこそ、ホメオスタシスが反応しているサインです。
引き戻しを感じたら、自分を責めるのではなく、こう捉え直してみてください。
「これは、自分が変化を始めた証拠だ」。
その上で、未来側のゴールをもう一度思い出し、今日もwant toの一歩を選び直す。
引き戻しは、止まれの合図ではなく、すでに動き出していることの確認なのです。
変わろうと決めたのに元に戻る。
その正体は、意志の弱さではなく、あなたを守るホメオスタシスでした。
逆風の正体を知り、その風を味方にする方法を知るだけで、前進の仕方はまったく変わってきます。
小さな一歩を、やりたいことと結びつけて積み重ねる。
やがて脳は、変わったあとのあなたを、新しい「いつもの自分」として守り始めます。
