経験を積むほど、見えなくなる景色がある

月に一度の1on1。入社3年目の後輩が、少し身を乗り出して話しはじめました。

「この前の部内会議で出ていた新しい案件、すごく面白そうですよね。手を挙げてみようと思っていて」

相づちを打ちながら、内心ではこう思っていました。
……そんな話、あっただろうか。

仕事はひと通り回せるようになった。後輩に教える立場にもなった。
それなのに最近、職場で「おっ」と心が動く瞬間が減っている。
そんな感覚に、心当たりはありませんか。

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その話、自分も同じ会議で聞いていたはずだった

席に戻って議事録を開くと、たしかに書いてありました。しかも自分は、その会議に最初から最後まで出ていたのです。

聞いていなかったわけではありません。耳には入っていたし、資料も目にしていた。
それでも記憶に残っていないのは、脳が「いまの自分には関係ない」と判断して、意識に上げなかったからです。

このように、見えているはずなのに認識できない心の盲点をスコトーマと呼びます。

「それは前にもやった」が、景色を消していた

では、なぜ後輩には見えて、自分には見えなかったのか。
理由は能力の差ではなく、むしろ経験の差かもしれません。

経験を積むと、「それは前にもやった」「どうせこうなる」という判断が素早くできるようになります。仕事を回すうえでは大きな武器です。
ただその裏で、脳は「もう知っている」と見なしたものを、次々とフィルターの外に追い出していきます。

後輩に見えていた景色は、自分の経験が静かに消していた景色だったのです。

カーナビを切った日に、知らなかった道が見えた

毎日カーナビの案内どおりに走っていると、迷わず目的地に着けます。けれど、途中の街並みはほとんど覚えていないものです。
ある日カーナビを切って走ってみると、何年も通った道沿いに、知らなかったお店や抜け道があったことに気づく。

脳の中にも、これと似た仕組みがあります。何を意識に上げるかを選ぶ、情報の門番のような働きで、RASと呼ばれます。
門番の判断基準は「自分にとって重要かどうか」。そして、その「重要」を決めているのは、いま自分が向かっている目的地、つまりゴールです。

目的地が昔のままなら、門番は昔と同じ景色しか通しません。

「次の3年でやりたいこと」を決めた途端、社内の情報が変わった

1on1のあと、ノートに「次の3年で、どんな仕事をしていたいか」を書き出してみました。
浮かんだのは「若手が育つチームをつくりたい」という一行です。

すると翌週から、他部署の育成の取り組みや社内研修の募集、後輩の何気ないつぶやきが、やけに目に留まるようになりました。
職場は何も変わっていません。変わったのは、門番が通す情報のほうです。

後輩の言葉も、「教える相手の話」から「自分の景色を広げてくれるヒント」へと、聞こえ方が変わっていきました。

経験という地図に、新しい目的地を書き込む

見えなくなった景色を取り戻すために、経験を捨てる必要はありません。
経験は、これまで歩いてきた道を記した頼れる地図です。足りないのは、その地図に新しい目的地を書き込むことだけ。


「この職場で見るべきものは、もう見た」と感じる日があるなら、それは景色が尽きたのではなく、目的地が古くなっているサインかもしれません。

明日から5分だけ、試してみませんか。
「3年後、どんな仕事をしていたいか」をスマホのメモに一行書き、次の1on1や会議で、そこにつながる話をひとつだけ探してみる。
それだけで、見慣れたはずの職場に、まだ知らない道が見えはじめます。

次回は、新しい道に踏み出そうとしたときに顔を出す「なんとなく気が進まない」の正体についてお話しします。

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この記事を書いた人

苫米地式コーチング認定コーチ/苫米地式コーチング認定教育コーチ/TICEコーチ/PX2ファシリテーター。 苫米地英人博士から指導を受け、青山龍ヘッドマスターコーチからコーチングの実践を学び、世界へコーチングを広げる活動を実施中。あなたのゴール達成に向けて強力にサポートします。

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